No.52597

08ハロウィン(ランバゼ)

駿木裕さん

Fate、ランバゼ小説です。

2009-01-17 11:07:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4084   閲覧ユーザー数:3991

『その日』バゼットは新都のデパートにいた。

地下に行くと目についたお菓子を大量に買い込み、用が終わるとそれらを持ってどこかへ消えていった。

 

ハロウィン。西洋ではなじみのある行事でもここ日本ではあまり浸透していないようだった。去年バゼットはそれに油断していて、ランサーに『いたずら』をされてしまったのだ。

『いたずら』と言っても子どもがやるようなかわいいものではなく、口に出すのもはばかれるようなとんでもないことをされてしまった。しかも一晩中。

『トリック・オア・トリート』の言葉に強制力はないのだが、ハロウィンにかこつけたランサーの申し出を断れなかったのもバゼットにとっては少々恥ずべき事でもあった。

なので今年はそのようなことがないようにと一週間も前から菓子を買いこんでいたのだ。

「今年は流されたりしませんよ!!」

誰に言うともない決意表明は人気のない洋館にむなしく響いた。

 

夜も更けたころ、洋館の扉をたたく音がした。

念のためとポケットにお菓子を忍ばせ扉を開けた。見ると予想通り片手をあげてにこやかにほほ笑むランサーがいた。

「トリック・オア・トリート」

いかにも楽しそうにランサーが言った。バゼットがポケットに手を伸ばす前に身体が引き寄せられる。

「去年のようにはいきませんよ。」

近づいてきた唇に飴を押し当てるとランサーは驚いたようにその飴を手に取った。

「なんだこれ?」

「見てわかりませんか?お菓子です。いたずらはなしですよ。」

するりと腕を抜けると飴を持ったままランサーが残念そうな顔をした。

「ちぇ。」

小さくつぶやくとその飴を口に放りこんだ。

「用は済みましたか?ではおやすみなさい。」

扉を閉めようとするとランサーが中に入って来た。

「大事な用がまだ残ってる。」

あ、と思う間もなくまた抱きしめられる。

そのあまりの心地よさにぐらりと決意が揺らぐ。

「…魔力が足りなくなったのですか?」

なるべく平静さを装いそう問いかける。

「いや?そういうの抜きで。」

ランサーがしゃべるとふわりと甘い匂いがする。先ほど食べた飴のせいだろうか。

「なら駄目です。」

抱きしめられた腕は逞しく温かい。何度抱かれたろう。こうしてる間も心拍数だけがどんどん上がっていく。

「そう言わず。」

そう言うと片手が離れ、うつむいた顔を上げさせられ、伏し目がちの顔が近付いてくる。

「魔力供給でもない行為は無意味です。」

残った理性で顔を背ける。もう自分の顔は赤くなってるだろう。ランサーはそれを分かってて誘ってくる。でも誘いに乗ったら負けだ。いつもいつも流されるわけにはいかない。

腰に回された腕からはすぐにでも抜けれそうだがそれをしないのはかすかに残った自分の未練か。弱い自分に喝を入れたい気分だ。

「じゃあ、お菓子がなくなるまでトリック・オア・トリートって言い続けようかな?」

ランサーの軽い提案にしてやったりと笑い返してやった。

奥の部屋を無言で指し示すとそこにはここ一週間で買い集めたお菓子の山。

その山を見てさすがのランサーも気を削がれたようだ。

すっと身体が離れ、背を向けられた。

「そうか…。」

ランサーの聞いたことのない真剣な声にびくりと身体が跳ねた。

「悪かったな。気づかなくて。そんなに嫌がられてるとは思ってなかったからな。」

「え…?」

予想してなかった展開に思考が止まる。

「もうしないから。魔力供給も…自分でどうにかする。じゃあな。」

背を向いたまま手を振られ、自分は取り返しのつかないことをしたのではと思い始めた。

止めなきゃ。いやでもそう言うことを拒んだのは自分だ。きっとこれは彼の手だ。

色んな思いが頭を駆け巡り動けないまま立ち尽くしていると…

 

「トリック・オア・トリート…。」

 

見知った顔が扉からひょいと飛び出した。セイバーだ。

「おや、ランサー。取り込み中でしたか?」

「ああ、ちょっとな。」

「では、出直しましょうか…。」

セイバーが身体を反転し、去ろうとする前に彼女を手を捕らえる。

「ハロウィンですね!お菓子ですね!あります!たくさん!もうあなたのために買ったようなものです!さあどうぞ!!!」

もう自分でもうろたえて何を言ったかわからないが、奥の部屋に置いてあったお菓子をすべてセイバーに押し付けた。

彼女は「限定ですね!」「おお、これはあのデパ地下のお菓子」と目をきらきらさせて帰って行った。

 

それを見送り扉を閉めるとどっと疲れが押し寄せてきた。

「…で?」

後ろから甘い香りが近付いてくる。振り返れず黙っていると後ろから抱きしめられた。

「いたずらはしてもいいのかな?」

熱い息が耳にかかる。低い声がとんでもなく心地いい。反則だと思いながらも前に回る腕を振りほどけなかった。

「…今回はちゃんとお菓子をあげたのでいたずらはなしです!」

「それは残念。」

あっさりとした口調に身体が離れて行きそうで慌てて言葉を探す。

「…お願いがあります。」

「ん?」

「…そういう行為は魔力供給ということにしてください。私としてもその…意味を持たせたいので!」

「意味ねえ…あるんだけどなあ。じゃあ、俺からもお願い。」

「なんですか?」

珍しい彼の提案にふと後ろを見ると唇にキスを落とされた。

「もう少し頻繁に。でないとめちゃくちゃにしちまう。」

 

「そそそそそそそそ、そう言うことを言わないでください!!」

あわあわとしていると後ろからくぐもった笑い声が聞こえてくる。

「なんですか!笑わないで下さい!」

自分の必死の抗議もどこ吹く風だ。

 

その後も終始楽しげなランサーに魔力を吸われ続けたのは言うまでもない。


 
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